乱暴だけどわかりやすいWindows Azureの説明 (2009.11.25)
製品を一言で説明することの難しさとそのための勇気
先週11月17日、米国でMicrosoftの開発者向けカンファレンス(PDC)があり、Windows Azureについての詳細な発表がありました。発表内容などは他のサイトに詳しいのでここではいちいち書きませんが、ここでは、もっと根源的な問いである「Azureって、そもそも何?」という疑問について考えたいと思います。
「疑問について考える」というのは変な言い方ですが、なぜいつまでたってもAzureのことをすっきり説明してもらえないのか、なぜいつまでもその疑問を持ち続けなければならないのか、ということです。私も含めて多くの人が、Azureが何であるのか、今ひとつ腑に落ちない状況が続いているのではないでしょうか。
昨年Azureが発表された時、「Azureって何?新しいOSなの?」という疑問を持ちました。そして、Azureの実態が明らかになるに従い、「発表の時に、もう少しわかりやすい説明の仕方があったんじゃないの?」と思えてきたのです。
私は最近、Azureのことを説明するときに、まず「非常にざっくり言うと、MicrosoftがホスティングするWindows Serverを使ったクラウドサービスのことです。ただし、もちろん違うところはあります。」と言っています。最初にこの説明をすることで、素早く全体のイメージをつかむことができ、そのあとの話の理解が格段に違ってくると思います。説明される側としても、多少不正確でも、まず全体像を理解した上で、「これはxxと同じものですが、こことここが違います」と言ってもらった方が、どれだけわかりやすいことでしょうか。
ただ、これはかなり乱暴な説明であることも事実で、誤解を生むこともあるかもしれません。しかし、大多数の人にとって、この説明でとりあえずは十分なのではないかと思います。もっと詳しく知りたい人は、調べる方法はいくらでもあるし、その場合でも、前提として上記の定義を踏まえた上であれば、効率も良いでしょう。
たとえばあなたが、味噌汁にごま油を少したらすとものすごくおいしくなることを発見したとします。友人にそのことを伝えるときに、何と説明しますか?「味噌汁にごま油をたらすとおいしいんだよ」ですよね?「昆布と鰹節の出汁に味噌を溶いたものに適当な具を入れて、ごま油を入れるとおいしい」という説明もあるかもしれませんが、聞いた方は、とっさに味噌汁のことだと思うでしょうか?「味噌汁のことみたいに聞こえるけど、そうは言っていないし、ひょっとすると違うものなのかもしれないな」と思って、ずっと腑に落ちない状況が続いている、というのが今回のAzureの状況なのではないかと思います。
(ただ、味噌汁のことを知らない外国の人に説明する場合には、後者の方が良いかもしれません。要は、情報の受け手の状況を考えて、説明方法を考える、ということでしょう)
バズワード乱発の弊害
バズワードという言葉があります。実態のない技術に名前をつけて、何かすごいもののように見せかける、というような意味にも使われ、ITマーケティングの分野ではよく使われる手法です。Azureも、「MicrosoftはWindows Serverを使ったクラウドサービスを始めます」といえば、わかりやすかったかもしれませんが、「なあんだ」と思われるかもしれません。マーケティング的には、「MicrosoftがAzureという新しいテクノロジーを開発して、クラウドに参入しました」という印象を与えたいところです。それに、Azureはクラウド対応のために様々な修正や新規開発を行っていることも事実であり、「今あるものと同じ」と思われるのは納得がいかないでしょうし、それはそれで誤った説明であるということもできるわけです。
しかし、もう少し工夫の余地もあるはずです。このような説明方法は、(まあ、意図的にわかりにくくしたわけでは無いでしょうが)ほとんどの関係者にとって良い迷惑ですし、Microsoftにとっても、最終的には良いことでは無いような気がします。.NETも、未だにわかりにくさが残っており、普及の障害になっている気がします。
こういった傾向はIT業界全体にあり、Microsoftだけの問題ではありませんが、Microsoftの影響力は他社に比べて非常に大きいため、余計に目立つのでしょう。
技術的な無謬性を求める弊害
マーケティング的なバズワードの問題と併せて、技術的な無謬性を求める問題もあります。IT関連の技術は複雑に入り組んでおり、マーケティング担当者が勝手にキャッチフレーズを付けたり、製品説明を作ることは不可能です。その製品でできないことを想起させるような説明をして販売した場合、トラブルの元になりますし、サポート・開発部門から嵐のようなクレームが来ます。そのため、マーケティング担当者は、キャッチフレーズや製品説明を考える場合に、技術部門のチェックを受けざるを得ません。その課程で、「わかりやすさ」よりも「正確さ」が重視されるわけです。最終的に、正確ではあるがわかりにくい(あるいは全くわからない)説明に落ち着くということがよくあります。ソフトウェアの動作環境や注意書きが延々と長くなる理由です。
Azureの例で言えば、「Azure OSはほとんどWindows Serverだが、イコールではない。イコールであるかのごときプロモーションは技術的に間違っており、顧客とのトラブルを引き起こす可能性があるから技術部門としてはこの言い方は認められない。」といったような理由があったかもしれません。(実際にこのようなやりとりがあったかどうかは私は知りません。ただ、そんなこともあり得るな、ということです)
これは企業にとっても顧客との無用のトラブルを避けるためのリスク管理的な側面もありますが、情報を受け取る立場からすると良い迷惑であり、ひいてはその企業の業績にも悪い影響を与えるのではないかと思います。
顧客のために「メッセージを単純化する勇気」が必要なのではないか
同じ名前でリリースされるソフトウェアでも、バージョンによって機能が違うことはもちろん、挙動や実行結果が違うこともあります。それを気にし出すと、コピー&ペーストの説明をするために「Microsoft Office 2007のバージョンxx.xx.xxxでは。。」等と書かなければならない事態になりかねません。どうすればコピー&ペーストできるか「だけ」を知りたいユーザーには迷惑でしかありません。
技術的な誤解を招いてリスクをもたらすことは避けなければなりませんが、メッセージの作成にあたっては、あえて枝葉を落として本質をまず語る、という、「勇気」が必要なのではないでしょうか。
