iPhone が世界初のモバイル クラウド端末である理由 (2009.11.30)
初めての「使えるブラウザ」がクラウドを加速させる
今や飛ぶ鳥を落とす勢いの iPhone。私も当然持っています。私は昔から Apple が好きで、AppleII とか Newton も持っているくらいですが、iPhone は本当に Apple らしさがよく出ていて、この成功はその「らしさ」がうまく働いた結果なのだろうと思います。
iPhone の成功は、一言で言えば、優れた「ユーザー エクスペリエンス(= 顧客体験)」を提供できていることでしょう。ユーザー エクスペリエンスは、10 年くらい前からさかんに言われ始めました (2001年発表の Windows XP の XP は eXPerience のことだったはず) が、Apple はそのはるか以前から取り組んできていました。ユーザー エクスペリエンスについては、また別の機会に触れます。
しかし、私は、iPhone の隠れた (そしてたぶん最大の) 特徴は、携帯端末としては世界で初めてとも言える、フル機能の Web ブラウザなのだと思っています。
クラウドを牽引する技術は実はクライアント サイド (ブラウザ) なのではないか
今、IT 業界で旬の話題といえば、クラウドでしょう。私が講師を務めている営業塾やセミナーなどでも、クラウドに関する話題が多くなっています。そして、クラウド時代の鍵を握るのが、クライアント サイドのテクノロジーなのではないかと思っています。
クラウドといえば、どうしても Amazon や Google の巨大なデータ センターを想像しますが、そこで使われている技術は、仮想化や Web サービスを含め、それほど目新しいものではありません。むしろ、クラウドの実現の鍵を握っているのは、クライアント サイド、特にブラウザだ、というのが私の考えです。クライアントには Flash や AIR、Silverlight などのリッチクライアント技術を含みますが、特に注目しているのが、標準技術としての実装が進められている JavaScript (Ajax) と HTML5 です。
Ajax は、2004 年、Google が「発見」した技術です。それまで、要素技術としてはブラウザに存在していたものを、うまく組み合わせることにより、それまでのスタティック (静的) な Web サービスを一気にインタラクティブでリッチなものに変貌させ、Web2.0 の中心的な技術となりました。そして、Ajax により、「Web ブラウザだけでもこれだけ高度なユーザー エクスペリエンスを実現できる」ということが証明されたのです。
このことが意味する重要性を一番よくわかっていたのが、他ならぬ Google でしょう。その後、メール、スケジュール、オフィス スイートなど、「あらゆる」サービスを Web 上に乗せ、全てをブラウザから (プラグイン無しに) 使えるようにしてきたことは、ご存じの通りです。
これまでは使い物にならかったスマートフォンのブラウザ
今やほとんど見かけなくなってしまいましたが、昔はノート PC と携帯電話の間を埋める存在として、PDA というのがありました。ザウルスとかパームとかいうやつで、今の iPhone よりも一回りか二回り大きく、通信機能は無い (PHS カードを差して使ったりしました) が携帯電話よりは高機能で、PC とのデータ交換も可能なものです。その時代、PDA に載っている OS としてメジャーだったのが PalmOS と Windows CE でした。
携帯電話が高機能化して、スマートフォンと呼ばれるものが出てくると、PDA は淘汰されましたが、スマートフォンに使われた OS は、PDA のものを引き継いでいたのです。これらの OS についていた Web ブラウザは、HTML のサポートも不十分で、速度も遅く、PC と同じサイトを見るのはほぼ不可能だったのです。
初めての「使う気になる」ブラウザを搭載したiPhone
話を iPhone に戻すと、iPhone に搭載されているブラウザは、PC 版と同じエンジンを持つ「Safari」です。クラウド対応に必須の Ajax も問題なく動き、Google のサービスはほぼ問題なく動くと言って良いでしょう。(ちなみに、iPhone のSafari では Flash は動きません。これについてはいろいろ難しい大人の事情がありそうです)
ある調査によると、2009 年 2 月時点でのモバイル ブラウザのシェア (トラフィック ベース) は、iPhone/iPod Touch (iPod Touch も iPhone と同じブラウザが動きます) が 7 割近くを占めている、ということです。2008 年のスマートフォン出荷台数に占める割合は iPhone が 8% くらい (1 位は Nokia) ですし、それまでに出荷されているスマートフォンの台数を考えると、iPhone のブラウザの利用率が突出しています。要するに、それまでのスマートフォンのブラウザなど、ついていても使う気になれなかった、ということなのではないでしょうか。
そして、これは、iPhone がクラウド サービスのクライアントとして、高いポテンシャルを持っている、ということです。2009 年 9 月現在で、iPhone と iPod Touch あわせて 5,000 万台が全世界で出荷されたそうです。見方を変えれば、クラウド サービスの潜在的なクライアントがすでに 5,000 万台存在している、ということです。サービス サイドは、この数字を甘く見るべきではないでしょう。
Androidにも期待
日本でも docomo から Android 端末が販売されており、今後半年以内にあと何機種か出てくると思われます。アメリカでは一足先に Android の最新版を搭載した機種が発売され、話題を呼んでいます。Android には Chrome ベースのブラウザが搭載されており、これは Safari と同じ、Webkit というエンジンを使っています。つまり、iPhone と遜色ないブラウジングができるというわけです。いや、むしろ、Google のサービスを使う上では iPhone よりも親和性は高いようです。ビジネスユーザーなら、Android という選択肢もあるということでしょう。
マイクロソフトは、クラウドのクライアントとして、「3 スクリーン」に向けてサービスを提供すると言っています。PC、携帯、そしてテレビです。今後、組み込み向けのブラウザの機能が PC 並になることで、クライアントのフォームファクタは多様になるでしょう。クラウドに関連したビジネスを展開しようとする企業は、この点を見据えておく必要があります。
